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100の恋、100のワイン
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ラ・ルーチェ マネージャー 小西優司
2008,07,15公開
『100の恋、100のワイン』 第6話

時計の針は8時52分をさしている。

穏やかな日曜日の朝を切り裂くように携帯電話の着信音がけたたましく鳴り響いている。
「・・・もしもし?」
「ねぇ、今から銀座まで来れる?」
沙蘭だ。
「今から?ちょっと待って。僕は今この電話で起こされたばかりなんだよ。それに、一体どうしたの?」
「電話じゃ話しづらいのよ、いいでしょ?10時にコリドー街のスターバックスで。」
そう言って電話は切れた。僕はしぶしぶながらも支度をして日比谷線で銀座へ向かった。コリドー街のスターバックスに着いたのは9時57分だった。彼女はもう既にトールサイズのカップチーノを半分ほど飲んでしまっていた。
「何があったの?」
カフェモカを買い、彼女の向かいに腰を下ろす。長い黒髪。大きな瞳。僕は緊張を強いられる。
「雄介がどこに行ったのか知りたいの。」
雄介。僕の親友、沙蘭の恋人。僕らは大学時代からの友人だった。
「あいつ、どこか行っちゃったの?ああ、発展途上国の医療改善のチームに入ったからアフリカに行くって言ってたけど、それかな?」
「それなら、私に言ってから行くはずでしょ?そうじゃなくて、電話しても出ないし家に行っても居ないのよ。こんなこと今までなかったの。」 「ふーん。どこに行ったんだろう?」 「それが分からないから、あなたを呼び出したんじゃないの。」



沙蘭は知らない。僕が彼女を好きだと言うことを。 沙蘭は知らない。雄介に好きな女が出来たことを。



大学三年の春のことだった。僕と雄介は青山のバーで二人で飲み、終電がなくなった後、当時住んでいた千駄ヶ谷のアパートまで歩いて帰っていた。
「なぁ、お前さ、沙蘭のことどう思う?」
「どうって?」
「好きかってことだよ。」
「分からないな、なんで?雄介はどうなの?」
「俺は沙欄が好きだ。お前にさ、頼みがあんだけど、沙蘭に好きな奴がいないか聞いてくれよ。」
僕はその頼みを引き受けた。
翌日、沙蘭が買い物に付き合って欲しいと言うので、代官山で待ち合わせた。買い物は雄介への誕生日プレゼントだった。買い物の間中、沙蘭は楽しそうだった。
僕は質問の必要性を感じなくなった。
その夜の間に僕は雄介に詳細を報告し、ほどなくして二人は交際を始めた。
沙蘭が好きなのは、僕だと思っていた。僕は酷く傷ついたが、表面的には二人を祝福した。僕らは友人なのだ。



「僕に聞いたって分からないよ。僕は雄介のマネージャーじゃないんだから。」
嘘だ。真実を僕は知っている。雄介は好きな女が出来た。同じ医療チームの先輩。沙蘭にそう言ってやりたかった。
「それもそうね。ごめんなさい。ちょっと不安だったの。私、帰るわね。来てくれてありがとう。あなたの顔を見たらちょっとほっとしたわ。」
沙蘭はそう言って席を立った。僕の胸の鼓動が早くなる。
「沙蘭、雄介じゃないと駄目なのか?」
「え?」
「事情は分からないけど、そんな風にほったらかしにされてもまだ雄介が好きなの?」
沙蘭はほんの束の間、黙り込んだ。もしかしたら2、3秒だったかもしれない。僕には2時間にも3時間にも感じられたけれど。
「ええ。私、雄介が好きなの。私には雄介しか考えられないの。たとえどんなことをされたとしても。」
「そうか、そうだよね。分かった。変なこと聞いてごめん。」
彼女はゆっくりと首を横に振った。
「いいのよ。私こそ。ごめんね。」
スターバックスの自動ドアから彼女が出て行くのを僕は見ていた。もし僕が17歳なら泣いていたかもしれない。

彼女には雄介しか考えられない。僕が沙蘭しか想えないのと同じように。
僕の胸は寂しさでいっぱいだった。沙蘭。僕の、愛しい、沙蘭。
ぬるくなったカフェモカは、飲んだことのないくらい苦い味がした。

彼女が最後に言った「ごめんね。」が、耳の奥で何度も何度もリフレインされていた。
ワイン ワインの名は
『シトモレスコ04 ガヤ ピエモンテ/イタリア』

3種類のぶどうをブレンドして作られた複雑なハーモニーを奏でるガヤの名酒。果実の持つふんだんな甘さとコク、余韻にほんのりと感じる苦味。片思いの切なさを思い出すような、胸のうちを甘酸っぱくする1本。
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小西優司・・・1977年6月26日生まれ  かに座 A型 京都市出身

西陣に生まれ、祖父の姉が祇園の舞妓という家に育つ。
京都の様々な風習や、伝統、京都人の気質に反発し、18歳の時にイタリアヘ渡るも、 そのことにより以前よりも強く「京都人としての自分」を意識するようになる。 帰国後、上京し現在の「青の会」の前身、「アクト青山」に入所し俳優となる。 その一方で東京のイタリアンを転々とし、現在のLA LUCEのマネージャーとなる。
近代古典文学というクラシックな演劇と、時代の先端だったイタリアン。 正に新旧あいまみえてという生き方に、「京都の人」たる真骨頂がある。 出演代表作に「桜の園」チェーホフ 「華々しき一族」森本薫 「牛山ホテル」岸田國士 また、シャンパンをこよなく愛し、シャンパンの無い人生は考えられないという・・・。
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